Title: ピエロで行こう (文芸社)
Author: 中園直樹
Category: 恋愛?小説
Story: もう二度と恋はしないと誓った吉田は、自殺願望の強い栗栖に出会う。むしろ苦手なタイプだと意識する彼女の自殺願望を言葉を尽くして説得していくうちに、彼女との不思議なつきあいが始まる。
Comment: この本を買ったのはまったくの偶然で、本屋の店先にあったビビッドな赤い表紙に引かれて読んでみたにすぎない。中園氏の前の作品も読んだことがなかったし、彼が若い世代に受けていることも知らなかった。ただ、なんとなく本の帯をみて「切ないラブストーリー」らしいと思って読み始めた。
自分で自分を認められない女の子を長年のいじめからなんとか立ち直った(もしくは身を守るすべを学んだ)男の子が、彼女が立ち直る手助けをするという形で話しが進んでいくのだが、かなりメッセージ性の強い書き方なので、ラブストーリーというよりは「いじめ」に焦点が当たっている。おそらくこの主人公は作者自身であろうというのは明らかで(実際彼がいじめられる人や自殺者の代弁者となるべく小説を書いているということを後で知った)、あまりにテーマや感情がダイレクトすぎて、私はかなり疲労感を感じて哀しい気持ちになった。おそらくこれで救われる人はたくさんいるのだろうが、私はちっとも救われない気分だ。小説で表現することの意味が少し足りないような気がした。もちろんこうやって手に取る機会が増えるということで既に意味のあることなのだろうけれど。
個人的にはこの本で描かれている関係は恋愛ではないと思うし、そういう意味で切ないとは感じない。むしろある種の病んだ空気が常に漂っていて怖い。
おそらくこの本を読むのには私は年をとっているのだろうと思う。実際高校生くらいの時にはこんな会話も日常にあったかもしれない。しかしそれをそのまま目の前に突きつけられると、そのころの自分の偽善や屁理屈を感じて嫌な気持ちになるのかもしれない。ただ、おそらく高校時代にこの本を読んだとしても決して共感はしなかったと思う。
いじめに遭った人の気持ち、多くの自殺に追い込まれる人、それが全面に押し出されているのはよくわかるが、誰かに救われたいという声があまりに強力で、暴力的な感じすら受けるのは私だけであろうか。