新潮社 (2004/09)
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Category: 文芸
Story: 死を間近にしたエイズ患者の世話をするソーシャルケアワーカーとして働く「私」の語る人々の心と最期の日々
Comment: 本屋でなにげなく平積みの本を手にとって、ぱらぱらとめくったら気になってしまい、レジに走った本。ハードカバーで買ったんだけど、実はもう文庫になっていたんですね。でも、この本はハードカバーで読んで良かった気がします。上記のリンクは文庫版です。
訳者も後書きに書いているとおり、このあらすじをみて、「ちょっとかんべんしてほしい」あるいは「きっと陳腐な話だろう」と思う人は多いと思う。私もあらすじをまず最初に読んでいたら、きっとこの本は手に取らなかっただろう。でも、これを読み始めてすぐ良い意味で「これは何か違う」と思った。
この本の構成は短編連作の形で、11本の「~の贈り物」と題するお話からなり、全体としてもひとつのストーリーになっている。登場するいろんなタイプの患者とその人生。それに最大限の努力であわせようとつとめるが、徐々に自分のなかの何かを消費していってしまう「私」。そのすべてのストーリーは急激であれ、ゆっくりとであれ、あともどりできない死への道筋。しかしそこにあるのは決して恐怖や嫌悪だけではなくて、ただそこに人がいるだけである暖かいものがある。ある意味救いのないストーリーだが、そのタイトルのとおり、各短編には間違いなく、癒やしや許し、感謝がある。これは決して患者に対するものではなく読んでいる読者への贈り物だ。
読み終わった時の感覚はただ切ない気持ちだった。よくある感動と銘打ってあるような難病ものを見たときの切なさではない。問題作を読んだときのどんと腹にくる重さでもない。ただ、なにかちょっと季節はずれの風を感じるような、そんな感じだ。全般に透明感のあるシンプルなストーリーと文体(英文は読んでないのでわからないが)で、不思議な清潔感がある。でもそれは、すこし冷たくて乾燥した、生き物に必然のぐちゃぐちゃとした湿り気を失った、死を前にした人の手の手触りに似ている。